「今まで得意だったフォアハンドストロークが打てなくなった。どうすればいい?」
「イップスが原因でテニスが楽しくなくなってきた。どうしたら元に戻る?」
これらの疑問や悩みを解決する記事です。
本記事を読み終えると、イップスについての理解が深まり、具体的な克服方法を知り、テニスに取り組む意欲が湧いている状態になります。
- イップスの定義やメカニズム
- テニス特有のイップス症状
- イップスの原因
- イップスの効果的な対策
イップスとは何か
テニスをプレイする中で、突然ショットや動作が思い通りにできなくなる現象をご存じでしょうか。
それが「イップス」と呼ばれる状態です。
イップスは、テニスだけでなく、野球、ゴルフ、ダーツなど、様々なスポーツで見られます。
このパートでは、イップスの定義や発生メカニズムについて詳しく解説します。
イップスの定義
イップスは、学術的には局所性ジストニア(職業性ジストニア)と同義で考えられ、神経疾患に分類されています。
スポーツにおいては、選手が過去に問題なく行えていた技術や動作が突然できなくなる現象を指します。
テニスでは、以下のような症状が一般的です。
- 【筋肉の不随意な動き】
- ラケットを振る際に腕や手首が勝手に動いてしまう。
- 【動作のぎこちなさ】
- 以前は自然にできていたサーブやストロークが急に難しく感じられる。
- 【精神的な不安】
- 失敗を恐れる気持ちやプレッシャーで集中できなくなる。
イップスのメカニズム
イップスは長く心の問題だと考えられてきましたが、最新の研究では脳の構造変化が原因と指摘されています。
主な原因は、以下のとおりです。
- 【過度の反復】
- 同じ動作を過剰に繰り返すことによって発症する可能性がある。
- 【トラウマ】
- 過去の失敗経験がトラウマとなり、症状を引き起こす場合がある。
イップスでは、脳が筋肉に正確な指示を送れなくなります。
これは単なる心理的な問題ではなく、神経系の機能障害によるものと考えられています。
テニスにおけるイップスの症状
イップスの症状は身体的な影響だけでなく、メンタル面にも及び、プレーヤーに大きな負担を与えます。
ショットの安定性が損なわれる症状
イップスが発生すると、プレーに以下のような変化が現れます。
- 【筋肉の痙攣や不随意な動き】
- ラケットを振ろうとすると腕や手首が勝手に動き、正確なショットができなくなる。
- 【ぎこちない動作】
- 以前は自然にできていたサーブやストロークが突然ぎこちなく感じられる。
- 【ショットの精度低下】
- 狙ったコースにボールを打ち込めなくなるため、相手に有利な状況を作ってしまう。
- 【特定の動作での困難】
- フォアハンドで腕が固まる、トスが上げられない、ステップがわからなくなるなど、特定の動作に問題が生じる。
イップスの症状は人によって異なり、以下のような発症パターンがあります。
- 練習では出ないが試合で出る。
- 特定の練習になると出る。
- 指導者や他人が見ていると出る。
メンタルへの影響と心理的要因
イップスは神経系の機能障害が主な原因ですが、心理的なプレッシャーや不安も症状を悪化させる要因となります。
主な心理的要因は、下記のとおりです。
- 【過去の失敗経験】
- 試合中のミスが強く記憶に残り、「また失敗するのではないか」という恐怖心を引き起こす。
- 【プレッシャーの増大】
- 大事な試合や観客の注目を浴びる場面で、失敗への恐怖が高まる。
- 【集中力の低下】
- 心が不安で支配されると、技術に集中できなくなり、動作がぎこちなくなる。
イップスを経験した選手は自信を失い、テニスを楽しむこと自体が難しくなることがあります。
また、「イップスを克服しよう」と過剰な練習を行うと、さらに症状が悪化する場合も少なくありません。
テニスイップスの原因
繰り返しになりますが、テニスにおけるイップスは、単なる技術的な問題や精神的な要因だけでなく、脳の神経系統の機能障害が主な原因であると考えられています。
この神経系の問題に、精神的・身体的な要因が複雑に絡み合って症状を引き起こします。
以下では、イップスの主な原因を詳しく解説します。
神経系の機能障害
イップスの根本的な原因は、脳から筋肉への指令に異常が生じることです。
- 【脳の可塑性】
- 過度の反復練習により、脳内の運動制御領域に変化が生じ、正常な動作指令が妨げられる。
- 【感覚運動の不一致】
- 意図した動作と実際の動作の不一致が、脳内で混乱を引き起こす。
心理的要因
心理的要因は、神経系の機能障害を悪化させる引き金となることがあります。
- 【プレッシャーと不安】
- 重要な試合や観客の存在が、過度の緊張を引き起こし、症状を悪化させる。
- 【過去のトラウマ】
- 失敗経験や負傷の記憶が、無意識レベルで動作に影響を与える。
身体的要因
身体的な問題も、イップスの発症や悪化に関与する可能性があります。
- 【筋肉の過緊張】
- 過度の緊張が持続すると、スムーズな動作が阻害される。
- 【疲労蓄積】
- 過度な練習や試合による身体的疲労が、神経系の機能に影響を与える。
環境要因
練習や試合の環境も、イップスの発症に関与することがあります。
- 【特定の状況での発症】
- 練習では問題なくても、試合や人前でのみ症状が出現する場合がある。
- 【コーチや周囲の期待】
- 過度の期待や評価が、無意識のプレッシャーとなる。
たくさんの選手が直面する実際のイップスの事例
テニス界では多くの選手がイップスに悩まされてきました。
この現象はトッププロからアマチュア選手まで幅広く影響を及ぼし、突然訪れる動作の不調が選手のキャリアに大きな影響を与えることもあります。
このパートでは、有名なテニスプレーヤーのイップス体験を紹介します。
アリーナ・サバレンカのサーブ問題
2022年初頭、サバレンカ選手は深刻なイップスに悩まされ、1試合で21回ものダブルフォルトを記録しました。
彼女は「プレッシャーと不安に押しつぶされた」と語っています。
アンナ・クルニコワのサーブの不調
1998年から1999年にかけて、クルニコワさんは10試合で182回ものダブルフォルトを記録し、1試合で31回のダブルフォルトという記録を作りました。
アレクサンダー・ズベレフのサーブ問題
2019年、ズベレフ選手は1試合で20回のダブルフォルトを記録し、イップスの影響を受けていることが明らかになりました。
テニスイップスの改善方法
イップスはテニス選手にとって深刻な問題ですが、適切な方法で取り組めば必ず克服できる問題です。
脳のトレーニング|神経系の働きを正常に戻す
イップスの根本原因は、脳の働きに異常が生じていることです。
この状態を改善するために、以下のトレーニングを行います。
- 【 ゆっくり丁寧に動いてみる】
- 焦らず、ゆっくりとした動作から始め、徐々にスピードを上げていくことで、脳に正しい動作を覚えさせる。
- 【自分の体の動きを観察する】
- 鏡や動画を活用して、自分の体の動きを客観的に見てみる。どこがスムーズに動いていて、どこがぎこちないのかを意識することで、改善すべき点を発見する。
- 【バイオフィードバック】
- 機械を使って、筋肉の動きを可視化することで、より正確な動作を身につけることができる。
心のトレーニング|ネガティブな感情を克服する
イップスは、プレッシャーや不安といった心の状態も大きく影響します。
- 【今に集中する】
- 過去の失敗や未来の不安にとらわれず、今この瞬間に集中することで、心の状態を安定させる。
- 【ポジティブな言葉を自分にかける】
- 「私はできる」など、肯定的な言葉を自分に言い聞かせることで、自信を高める。
- 【思考のクセを変える】
- 「いつもミスしてしまう」といったネガティブな思考を、「次はうまくいく」といったポジティブな思考に変える練習をする。
環境の調整|練習方法を見直す
従来の練習方法を見直し、新しいアプローチを取り入れることで、イップス克服をサポートします。
- 【多様な感覚を使って練習する】
- 視覚、聴覚、触覚など、様々な感覚を使って練習することで、脳を活性化させ、より効果的な学習を促す。声でタイミングをとったり、手で動きをアシストするなど。
- 【動作を分解して練習する】
- 問題のある動作を細かく分解し、一つずつ丁寧に練習することで、より効果的に改善できる。テイクバック前と後に分けたり、上半身だけの動作や腕だけの動作に分解するなど。
- 【十分な休息をとる】
- 休息は、脳の回復に不可欠。質の高い睡眠をとり、疲労を溜めないようにする。
わたしのイップス克服体験
テニスを続ける中で、わたしもイップスに悩まされた一人です。
フォアハンドやサーブのトスがうまくいかず、試合でも練習でも思うようにプレーできない日々が続きました。
しかし、いろいろな方法を試すうちに、自分に合った克服法が見つかり、以前のようにテニスを楽しめるようになりました。
このパートでは、わたしのイップス体験と効果のあった対処法を紹介します。
フォアハンドのイップス克服法
長いブランクからテニスに復帰して、2日目に突然イップスが発症しました。
フォアハンドストロークでインパクト付近のスイングがぎこちなくなり、ラケット面が安定しなくなったのです。
打つショットがネットにかかったり、アウトになったりすることが頻発し、ボールがコートへなかなか入りません。
ラリーをしてもまったくつながらず、相手に申し訳ない気持ちでいっぱいでした。(ラリーの球出しすらうまくいきません…)
コンチネンタルグリップで握って打つとイップスが起きないことに気づいたので、その握りでだましだましテニスを続けていました。
結局、以前のフォアハンドを取り戻すために、テニスを対人でするのをしばらくやめることにしました。
壁打ちで試行錯誤をした結果、3年近くかかりましたが、何とかイップスから抜け出せました。
最終的に意識したのは、下記の4つでした。
- 【体重移動して打つ】
- 前後の体重移動を意識的に使うことで、小手先で打たなくなった。肘や手首の余計な動きがなくなった。
- 【下から上にトップスピンをかける】
- いろいろな当て方を試したが、イップスを抜け出すきっかけになったのはトップスピン。フラットに当てようとするとタッチに頼る傾向があった。トップスピンを意識的にかけて振り切ると、ボールをコントロールできるようになった。
- 【ボールの行き先を見ない】
- 顔を打点に残すことで、体の開きが抑えられ、腕が鋭く振れるようになった。打点とスイングが安定し、ボールに力が伝わるようになった。
- 【しっかり振り切る】
- フォロースルーのとき、左手でラケットをキャッチすると、スイングが失速して不自然な終わり方をしていた。ラケットを振り切って、首に巻きつけたほうが自然なスイングができた。
ボールをコントロールしようとせずしっかり振り切る
自然に加速していくスイングを壊さないように、ボールの行き先を見ずにラケットを振り切るようにしました。
ボールの行き先を見ないことで、顔を打点に残せます。
フォロースルーでは、左手でラケットをつかまえず、首に巻きつけるようにしました。
ボールのコントロールを気にせず、気持ちよくスイングを加速できるように打ち続けたら、いつのまにかイップスは消えていました。
実際の練習方法
壁打ちで行った練習は、とてもシンプルです。
壁に向かって球出しをして、跳ね返ってきたボールを1打だけ打つ。
これを繰り返しました。
最初は、ほぼ毎日イップスで思うように打てませんでした。
意識する内容を変えながら試行錯誤しているうちに、イップスが起こらない日と起こる日を行ったり来たりするようになりました。
ボールの行き先を気にせず、ラケットを振り切るようになってから、イップスは消えていき、以前のように打てるようになりました。
サーブのトスイップスへの対処法
サーブでは、試合で緊張する場面で、トスアップする腕がスムーズに上がらなくなりました。
ボールが思った通りに上がらないので、しょうがなく変な打点で無理やり打っていました。
練習のときにも腕がうまく上がらないことはありましたが、試合で緊張した場面になると頻繁にイップスが起こります。
トスアップの上げ方をYouTubeの動画を参考にしながらいろいろ変えてみましたが、なかなかスムーズに上がりません。
- ボールの持ち方
- 肘の使い方
- 最初の構え方
- 腕の上げ方
- ボールを上げる方向
- ボールを手から離すタイミング
- 腕を上げる速さ
- ボールを上げる高さ
- 手や腕の力具合
- 顔を上げるタイミング
体全体を使ってトスを上げる
トスアップがスムーズに上げられるようになったのは、鈴木貴男プロの「体全体を使ってトスを上げる」方法に出会ってからです。
今まで腕や手の動きに意識が向きすぎていました。
体全体で体重移動を大きく行い、そのリズムに合わせてトスアップすると、スムーズに上げられるようになりました。
トスの動作に全身を使うことで、腕や手へのプレッシャーが分散され、自然な動きが実現したのだと思います。
実際の取り組み方
下記のように、サーブのモーションの中で腕を上げる練習を行った結果、イップスが起こる回数は減っていきました。
- STEP1素振り
ボールを持たずに、サーブのモーションの中で左腕を上げる練習を行う。
- STEP2トスアップ
ボールを持って、サーブのモーションの中でトスアップ練習を行う。ただし、打たずにトロフィーポーズで止まる。
- STEP3実際にサーブを打つ
実際に、前後に体重移動しながらサーブを打つ。
イップスがわかるおすすめの動画と書籍
イップスを理解して克服するためには、信頼できる情報源を活用することが大切です。
わたし自身もお世話になった、イップスを解説している動画と書籍を紹介します。
これらを参考にすることで、イップスの仕組みや改善方法を学ぶことができます。
おすすめの動画 | 【超入門】なぜイップスになるのか?症例から克服方法まで優しく解説
トモヤ@イップス研究家チャンネルのイップス超入門動画です。
解説されている谷口智哉さんは野球のイップスを克服した経験を持ち、さまざまなスポーツのイップス症状を克服に導いているイップスの専門家。
この動画では、イップスの原因から克服方法までを丁寧に解説しています。
専門的な内容をわかりやすく例えを入れて説明し、具体的な症例を交えているため、自分の状況に当てはめて理解しやすくなっています。
おすすめの書籍 | 図解でわかる!イップスの克服
おすすめの動画で紹介した谷口智哉さんの著書「図解でわかる!イップスの克服 個別メニュー作成と段階的トレーニングで治す」もイップスの理解を深めるのに役立ちます。
イップス関連の本は何冊も購入していますが、この本が1番わかりやすく、実践的です。
競技別トレーニングの具体例に、「テニスにおけるスモールステップの実践方法」といったページもあり、テニスでイップスになった方の助けになるはずです。
イップスを克服するための心構えと習慣
テニスでのイップスは、多くの選手が経験する精神的な壁ですが、正しい心構えと習慣を取り入れることで克服することが可能です。
このパートでは、安定したパフォーマンスを取り戻し、自信を持ってプレーするための具体的な対策を紹介します。
環境を変える | 一時的に対人プレーを控える
イップスに悩む時期は、過度なプレッシャーを避けることが重要です。
特に試合形式の練習や対人プレーでは、失敗への恐怖が増幅されることがあります。
そのため、一時的に環境を変えることで負担を軽減する方法が有効です。
環境を変える具体的な方法は、壁打ち練習です。
練習相手にボールをコントロールする必要がないので、心を落ち着けた状態で、「どんなときにイップスが起こり、どんなときにイップスが起こらないのか」を探求することができます。
ポジティブ思考を促進する習慣 | 結果にこだわらないプレー
イップスを克服するには、結果に執着せず自然体でプレーすることが大切です。
特に「ボールの行方をコントロールしなければ」と思うほど緊張感が増し、スムーズな動作を妨げてしまいます。
効果的な心構えは、以下のとおりです。
- 【どこに飛んでもいいというマインド】
- ボールの行き先にこだわらず、スイングの感覚や動作がどうなっているかを楽しむ。
- 【成功体験を小さく積み上げる】
- 毎回の練習で「うまくいった部分」を見つけ、それを自信に変える習慣をつける。
- 【アファメーションを活用する】
- 「私は自信を持ってプレーできる」など、ポジティブな言葉を自分に言い聞かせる。
※「アファメーション」とは、自分の理想や目標を言葉にして、繰り返し自分に言い聞かせることです。
長期的な技術練習を覚悟する | 継続的な試行錯誤
イップスの克服は、短期的な解決を目指すのではなく、長期的な視点で取り組むことが大切です。
原因や改善方法には個人差があるため、試行錯誤を繰り返す過程そのものが成長につながります。
長期的に取り組むために、以下を意識するといいでしょう。
- 【練習メニューの工夫】
- 同じ練習を繰り返すのではなく、さまざまな方法を試すことで新しい発見を得られる。
- 【小さな目標を設定】
- 「今日はスイングだけに集中する」など達成しやすい目標を設定し、日々の練習に取り入れる。
- 【専門家のサポートを受ける】
- 必要に応じて、イップスの専門家に相談することも検討する。
まとめ
最後に、まとめておきます。
- イップスとは、過去に問題なく行えていた技術が突然できなくなり、筋肉の不随意な動きや動作のぎこちなさなどを伴う現象。
- テニスにおけるイップスは、特定の動作の困難、ショットの精度低下、メンタルへの悪影響など、様々な症状を引き起こす。
- イップスは、脳の神経系、心理状態、身体状態、そして環境など、様々な要因が複雑に絡み合って発生する。
- トップレベルの選手もイップスに悩まされ、試合中に多数のダブルフォルトを記録するなど、プレーに大きな支障をきたした例が存在する。
- イップスは、脳と心のトレーニング、そして練習方法の見直しによって、克服することができる。
- イップスを克服し、安定したプレーと自信を取り戻すには、環境の工夫、ポジティブ思考の習慣化、そして長期的な努力が欠かせない。
よくある質問
- Q イップスになりやすい人はいる?
- A
真面目で責任感が強く、周囲に気を使う人、他人の目を気にする人などがイップスになりやすいです。
- Q イップスかな?と思ったらどうすればいい?
- A
まずは、一人で悩まずにコーチや経験者に相談しましょう。原因を特定し、自分に合った克服方法を見つけることが大切です。
- Q イップスは治るの?
- A
治る人もいれば、慢性化する人もいます。早期に適切な対処をすることで、克服できる可能性は高まります。